多焦点眼内レンズとは
多焦点眼内レンズとは、水晶体の代わりに眼内レンズを目の中に入れることで、眼鏡なしで遠くも近くもよく見えるようになる治療方法です。
眼鏡をせずに見える範囲が広がるため、生活が大変便利になります。しかしその一方で、デメリットもあるため、後悔しないように特徴を知っておきましょう。
多焦点眼内レンズの
メリット・デメリット
メリット
近方・遠方の両方が見えるようになる
近方、遠方の両方にピントが合いやすいことは、多焦点眼内レンズの最大のメリットと言えるでしょう。
白内障を改善するだけでなく、老眼をカバーできることで、QOLが大きく向上します。
ほとんどの人が眼鏡・
コンタクトなしで生活できる
多焦点眼内レンズを挿入された方の約9割が、眼鏡・コンタクトなしで日常生活が送れるようになっています。
※ただし、車の運転時など、特定のシーンで眼鏡・コンタクトが必要になることはあります。
選択肢が豊富
多焦点眼内レンズは、非常に多くの種類が用意されています。以前は遠方・近方にピントが合う2焦点眼内レンズが主流でしたが、最近では、遠・中・近方にピントの合う3焦点眼内レンズや連続焦点型眼内レンズがよく用いられるようになっています。また5焦点眼内レンズ(自由診療)も登場しています。
ライフスタイルやご希望をうかがい、より患者様お一人おひとりに合った眼内レンズを選択いたします。
デメリット
費用がかかる
単焦点眼内レンズを使用する場合と比べると、費用がかかります。
※ただし、選定療養制度を活用することで、ご負担が軽減されます。
コントラストの低下、グレア・ハロー
多焦点眼内レンズは、各距離に光エネルギーを配分している構造上、単焦点眼内レンズと比べると、コントラストが劣る部分があります。
また、夜間に信号や対向車のライトを見ると、光の周りに輪が出たり(ハロー)、光が長く伸びてまぶしさを感じたり(グレア)することがあります。通常3カ月程度で順応し、気にならなくなる方が多いです。
適応外になることがある
白内障以外の目の病気を併発している方や、瞳孔が特に小さい方では、多焦点眼内レンズを用いると逆に見にくくなることが予想されるため、適応外となることがあります。
また、見え方について特別神経質な方にも多焦点眼内レンズは不向きと言えます。
多焦点眼内レンズが
おすすめの人・向かない人
向いている人
- 眼鏡、コンタクトレンズへの依存度を下げたい方
- 白内障以外に目の病気のない方
- ハロー・グレアといった術後の副症状、場合によっては眼鏡やコンタクトレンズが必要になることもある程度許容いただける方
向かない人
- 夜間に運転することが多い方(タクシー・トラック・バスの運転手の方など)
- 近方や手元を集中して見る作業が多い方(デザイナー、プログラマー、カメラマンの方など)
- 瞳孔の径が小さい方
- 緑内障や眼底疾患など、白内障以外の目の病気がある方
- 見え方に対して特別神経質な方
選定療養による白内障手術の仕組み
多焦点眼内レンズを用いた手術は、保険適用にはなりません。ただし、厚生労働省の認可を受けた多焦点眼内レンズを使用する場合は、「選定療養制度」の対象となります。
選定療養制度では、通常の白内障手術にかかる費用部分は保険適用となり、レンズ代の差額分(多焦点眼内レンズの代金-単焦点眼内レンズの代金)および追加検査費用は自己負担額として追加でお支払いいただく形になります。すべて自費診療扱いになる場合(厚労省未認可の眼内レンズを使用する場合)と比べ、患者様のご負担がかなり軽減されます。
選定療養と自由診療について
白内障治療における多焦点眼内レンズは、老視矯正も視野に入れた治療を目指しています。これまでは、この治療は先進医療の枠組みで提供されていましたが、2020年3月末をもって、先進医療の適用から外れ、選定療養の枠組みで提供されることになりました。
海外からの輸入眼内レンズ(例: ファインビジョン、ミニウェルなど)を使用する手術は、従来通り完全な自由診療となります。
完全自由診療の多焦点眼内レンズは、手術費用に術後2か月間の診察・検査・投薬代が含まれます。
当院で扱う多焦点眼内レンズ
取り扱い多焦点眼内レンズ表
多焦点眼内レンズ | 多焦点眼内レンズ |
テクニスマルチ |
テクニスシンフォニー |
|||
タイプ | 回折型 | 回折型 | 回折型 | 回折型 | 回折型 | |
ピントの数 | 3焦点 | 2焦点 | 焦点深度拡張 | 連続焦点 | 5焦点 | |
近方視の焦点距離 | 40cm /60cm | 30cm or 40cm or 50cm |
66cm | 33cm~約70cm |
40cm / 60cm |
|
乱視矯正 | ○ | × | ○ | ○ | ○ | |
医療費 | 選定療養 | 選定療養 | 選定療養 | 選定療養 | 自由診療 |
多焦点眼内レンズ |
vivity |
ファインビジョン |
||
タイプ | 分節状屈折型 | 波面制御テクノロジー | プログレッシブ(EDOF) | 回折型 |
ピントの数 | 2焦点 | 3焦点 | 3焦点 | 3焦点 |
近方視の焦点距離 | 40cm |
70cmまで |
累進焦点 | 40cm /60cm |
乱視矯正 | 40cm | × | 〇 | 〇 |
医療費 | 自由診療 | 選定療養 | 自由診療 | 選定療養 |
多焦点眼内レンズの種類
選定療養
自由診療
クラレオンパンオプティクス
クラレオン パンオプティクス(Clareon PanOptix)は、Alcon社(アメリカ)が製造する回折型の3焦点眼内レンズです。このレンズは2019年に国内で初めて厚生労働省に認可され、2020年の「選定療養」の開始と同時に導入されました。2023年まで、唯一の選定療養対象となる3焦点眼内レンズでした。
テクニスマルチ
2焦点眼内レンズですが、近方~中距離のピントを30センチ・40センチ・50センチの3つの距離から選択することができます。患者様のライフスタイルに合わせた選択をすることで、毎日の快適な見え方をサポートします。
国内ではもっとも実績の豊富な眼内レンズです。
ポイント
- 2焦点眼内レンズ
- 近方~中距離のピントを選択できる
- 瞳孔径の影響を受けにくいデザイン
- 暗所、手元の見え方が良好
- ハロー・グレア現象が気になることも
テクニスシンフォニー
テクニスマルチの新しいシリーズとなる、2焦点眼内レンズです。
ピントの合う範囲が拡大された設計であるため、遠方にピントを合わせたときの視界・コントラスト感度が優れています。ただし一方で、手元の見え方はあまり優れていません。読書の際には老眼鏡が必要になることが多くなります。
ポイント
- 2焦点眼内レンズ
- 遠方の視界・コントラスト感度に優れる
- 乱視の矯正が可能
- 手元の見え方がやや不安定
テクニスシナジー
焦点拡張型と回折型を組み合わせたハイブリット型の新しいタイプの多焦点眼内レンズです。
近方の33センチから中間距離、遠方まで、連続的に見ることができます。
ただし、手元を見る際には眼鏡が必要になることがあります。
vivity
Vivityは、非回折型のEDOF(Extended Depth of Focus)レンズで、クラレオンビビティ(Clareon Vivity)として知られています。このレンズは、ALCON社によって製造されており、アメリカでは2020年から販売・使用されています。そして、2023年には日本でも承認され、使用されるようになりました。
ポイント
- 近方・中間が連続してスムーズに見える
- コントラスト感度に優れる
- ハロー・グレアを最小限に抑える
- 他の眼の疾患がある場合でも、挿入可能な場合がある
ファインビジョン
ファインビジョンは、3焦点眼内レンズであるバイフォーカルレンズを組み合わせた二重構造のレンズです。これにより、近距離と遠距離、または中間距離と遠距離の両方をカバーします。これにより、近くから遠くまでの全ての距離を見ることができ、眼鏡の使用頻度を減らし、日常生活をより快適に過ごすことができます。
ポイント
- 2焦点眼内レンズ
- 乱視矯正に対応
- 近方・中間・遠方距離の3ヶ所に焦点
インテンシティ
イスラエルで開発された、5焦点眼内レンズです。近方、中近、中間距離、遠中、遠方の5つにピントが合います。「次世代多焦点眼内レンズ」とも呼ばれ、光効率を最適化し光エネルギーのロスを6.5%に抑えて光を効率よく取り入れられます。
レンティス
レンティスは、ドイツのOculentis社が製造している多焦点眼内レンズです。白内障手術後、眼鏡の使用を最小限に抑えるために設計されたこの多焦点眼内レンズの中でも、「レンティス・エムプラス」は、強い近視や乱視にも対応可能です。オキュレンティス社が開発したこの完全オーダーメイドの多焦点眼内レンズは、一番適したレンズを作成するために細かく調整されます。
ミニウェル
この眼内レンズは、世界で初めて開発されたプログレッシブ(累進焦点)眼内レンズです。球面収差を活用し、遠方・中間・近方までスムーズな視界を提供します。従来の屈折型や回折型多焦点眼内レンズに比べて、コントラスト感度の高い視界を実現しています。
費用
選定療養
クラレオン パンオプティクス |
乱視なし:280,000円 |
---|---|
乱視あり:330,000円 | |
テクニスシナジー | 乱視なし:280,000円 |
乱視あり:330,000円 | |
テクニスシンフォニー | 乱視なし:180,000円 |
乱視あり:230,000円 | |
ファインビジョン | 乱視なし:280,000円 |
ビビティ | 乱視なし:280,000円 |
自由診療
インテンシティ | 乱視なし:462,000円 |
---|---|
乱視あり:517,000円 | |
レンティス | 乱視なし:440,000円 |
乱視あり:495,000円 |
税込価格となります。
多焦点眼内レンズのリスクと副作用
手術に伴うリスク
多焦点眼内レンズの手術には、通常の白内障手術と同じように、発生率は稀ではありますが、眼内炎症、眼内圧上昇、網膜剥離などの合併症のリスクがあります。
価格の高さ
多焦点眼内レンズを用いた白内障手術は、選定療養であるため、通常の白内障手術より、高い費用がかかります。
視力の品質低下
多焦点眼内レンズを使用した場合、輪郭やコントラストが若干低下することがあります。